4月16日(金) 真のイタリアンパスタを食う




朝からいい天気だ…。
雨の予報は一体どこに行ってしまったのか。
降らないなら降らないで別に構わんのだが、少し不気味でもある。

コテージの屋根に設置されたソーラーパネルがシブい。



ホウカフェトル。直訳すると鷹の山?たぶんそんなとこ。
このキャンプ場とすぐそばにある小高い山の名前だと思う。
なんの標識もないのにやたら奥地にあるこんなキャンプ場でも、夏にはそれなりに人が来るんだろうか。

ハプンに着いて以来、一輪車にはあえてほとんど乗っていない。
右ヒザは今も違和感を感じるが、歩く程度ならなんということもなさそうだ。
これだけ休めばさすがにもう治っていると思いたい。



コテージ暮らしは最高。
おかげで朝晩も寒くないし、雨風を気にする必要もない。

唯一の難点は、なぜかハエがよく入ってくること。
そしてヤツらがそのままくたばってしまうこと。
一日2回は左の箒みたいなので床を掃除をしないと死屍累々の状態になってしまう。

今日もまたヴァレリオの運転で、ハプン周辺をドライブすることに。
街からリングロードを東に40キロほど行った山奥に、
カラフルな石に彩られた不思議な谷があるという。

ヴァレリオも行ったことがないとかで、あちこち迷いつつ、ようやく到着。



はい、ここ。

確かにこのあたりだけ、石の色がヴァリエーションに富んでいる。
そして石のどれもが薄っぺらい。

ここだけなんでこんな環境になるのだろう。
噴火でポンとできたものではなく、
途方もない年月の堆積によってできた岩が、少しずつ風化していったものなんだろうか。



にわかに瞑想ごっこが流行する。

実際、ここが日本であれば、自然に修行僧が集まってきて石像でも彫りそうな雰囲気の場所だ。
エジプトなら王墓がありそうだし、他の国でも隠し財宝ぐらいはありそうだ。
でもここはアイスランド。
人間の活動の痕跡はほとんど無いのが基本。



石板のような薄い石を丹念に見て回ったが、化石のようなものも見つからなかった。
あるのは短い草と、コケ類ぐらい。
美しい場所ではあるが、やはりどうしても荒涼とした印象を受けてしまう。



どうやら俺たちの昼メシは、手作りサンドイッチ以外にはありえないらしい。

それにしても、ヴァレリオはどうしても材料を買う時に金を出させてくれない。

「セーブマネー!」とか「今日は払うけど、明日はわからないよ!」とか言いつつ、
結局毎日彼が払ってしまう。
一度レジのお姉さんに先回りして札を渡したのだが、

「おおっと、お願いだからそれは受け取らないで!」

とかなんとか言って、やっぱり払わせてくれなかった。
こういうのも、なかなか困る。

「いいかい、ボクたちはアイスランドでは外国人で、立場が似ている。
 ボクはこの街で、君のような人間に会えて本当に嬉しいんだ。
 だからボクは君が旅を楽しめるように手助けがしたいんだよ。」

ヴァレリオはそう言うのだが。
うーん、こういう時、俺はどういう態度を取ればいいのかな。
少し悩む。



川が蛇行しているので、時々渡ったり飛び越えたりする必要がある。
2人して「ニンジャ!」とか叫びつつ軽快に飛び越えていたのだが、
最後の最後で川にハマり、片足が水没する憐れなヴァレリオ。



川の水は相当冷たかったらしく、
とってもブルーな感じでトボトボと帰路につく彼。
合掌。

谷を出てクルマでハプンに戻る途中で、ヴァレリオがおもむろにクルマを止めた。

「ほらあそこ…、レインディアだ!」



レインディアです。

アイスランドの北東部に棲息する、鹿の仲間。
間近で見たのは初めてだが、
北海道でエゾジカを見慣れているので、これといってスゲー!!とも思わない。

でも俺が携帯で撮ったボケボケ写真と、ヴァレリオがキヤノンのデジ一眼で撮った上の写真とは、
後で見較べて「おや、鮮明さが全然違うな。」と妙に感心した。



ハプンに戻り、もはや日課と化しつつあるハスキーの散歩をする。
今日は二刀流に挑戦。
日に日に担当犬数が増えているのがポイント。

青い眼をしたデカいのが3匹もいるので最初はビビったが、慣れてくるとかわいい。



学校兼図書館兼事務所のカフェテリアで、のんびりと紅茶を飲む。
近頃では司書のおばさんとも顔見知りになり、少し会話したりするようにもなった。

ところで、ここで何か飲む時は、なぜか必ずこの奇怪なカップをあてがわれる。

「これはキミ専用のカップだよ。なぜって…きっと誰も使わないだろ。」

複雑な心境ですよ、ヴァレリオさん。

さて。
今日も遊び歩いているうちに、ディナーの時間になりました。

昨夜はローザがアイスランド料理をご馳走してくれたのだが、
今夜はなんと、ヴァレリオが『真のイタリアンパスタ』を作ってくれるそうです。

昨日オリーブオイルとパスタについて延々と講義された時はどうしようかと思ったが、
いざ実物を食べられるとなると、がぜん興味が湧いてくるものです。

「イタリア以外で食べるパスタは!
 とにかく茹で時間が長過ぎるんだ!
 あんなのはアルデンテじゃない!!」
 
彼はそう口を酸っぱくして力説しておられたので、
今夜はきっと、最高のアルデンテ、至高のペペロンチーノを食べさせてくれるのでしょう。

ヒマなので、彼が作る様子を動画に撮ってみた。
ちょうど30分で作り上げたのを適当に3分に縮めたのできっとワケがわからないとは思うが、
まぁその場の雰囲気だけでも感じてくださいよ。

3分でムリヤリわかる真のイタリアンパスタの作り方inアイスランド。



完成ー。
これがローマっ子による、真のペペロンチーノだ!!

材料は本当に、オリーブオイルとトウガラシとニンニクとパスタだけ。
至ってシンプル。



そしてもう一品。
これは『gato' di patate』(ポテトのお菓子、かな?)と言うイタリアの家庭料理で、
ヴァレリオのお婆ちゃんの得意料理を今回初めて作ってみたんだと。

これは俺も手伝ったよ。
ジャガイモの皮を剥いて茹でて、マッシュドポテトにするあたりまでは。

さて、ようやく真のパスタを食べられる時がやってまいりました。
ローザもまじえて3人でいただきます。

うーむ。

真のペペロンチーノ……辛っ!!!

あと、固っ!!

日本なら67%の確率で「ん、生煮え?」と言われそうな気がするぞ!

辛さはこれでも加減してくれたそうで、普段はもっと辛くするんだと彼は誇らしげに言う。
特にアラビアータを作るとなると凄まじく辛くなるらしく、
数日前、ローザがその犠牲者となって大変つらい思いをしたそうな。

アラビアータってアラビア風?と勝手に思い込んでたけど、実はイタリア語で『怒り』という意味で、
あまりの辛さで怒っているように見えることからついた名前なんだそうな。
とんでもない食い物だな。
ローザの受けたダメージが想像されてあまりある。

しかし…。
イタリアに長年住んでいたローザが辛い!と訴えるイタリアンパスタって一体…。



お婆ちゃんの得意料理のほうは、おいしくいただきました。
甘くないケーキというか、えーと、固めて表面を焼いたポテトサラダのような。

まぁともあれ、楽しい夕食ではあったよ。

夕食後、ヴァレリオに誘われて、ローザ宅の離れへ。
ここは彼いわく『ドージョー』だそうで、
ヒゲのイタリア人が夜な夜な七星蟷螂拳の修業に励む、要するに怪しいスペースだ。

彼はここで、ビールでも飲みながら、『となりのトトロ』を観ようじゃないか!と言う。

トトロかよ! 
アイスランドに来てトトロ!
ある意味、ピッタリのシチュエーションではあるが。

聞くところによると、トトロの由来は『トロール』という北欧の妖精で、
アイスランドにはそのトロールの伝説が至るところにあるそうな。
いわば、アイスランドはトトロの本場。そして故郷。



そんなわけで、ヴァレリオのノートパソコンによるトトロ鑑賞会。

トトロももう何回観たかわからないが、イタリア語字幕付きなのでちょっと新鮮。
意外におもしろくて全編をしっかり観てしまった。
「お姉ちゃんの、バカー!」が、
「ステューピダ、ソレッラ!」になるとこだけ覚えた。

日本文化にずいぶん偏った興味のあるヴァレリオが、
あれは何を食べているのか?あれは何を意味しているのか?としょっちゅう聞くのでそのたびに、

「あれはおはぎという甘いお菓子で、いいことがあった時に食うものだ。とてもうまい。」

「あれは氷、アイスという意味で、日本では夏に食う氷菓子のことだ。とてもうまい。」

などと適当に解説していた。

アイスランド産のビール、その名もバイキングを飲みつつ、夜中にイタリア人とトトロを観る。

一生のうちで、たまにはそんな夜があってもいい。


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